こんにちは、園芸ライターの森下芳恵です。
冬の胡蝶蘭で私がいちばん気にしているのは、昼の日当たりよりも夜の窓辺です。
部屋が暖かくて昼間は元気そうでも、皆さんが眠ったあとの窓際では、鉢だけが冷気の中に残されています。
この記事では、胡蝶蘭の冬越しを「夜」に絞ってお話しします。
寝る前の1分でできる対策と、冷えのサインの見分け方を持ち帰ってくださいね。
昼の窓辺と夜の窓辺は、別の場所です
冬の窓は、部屋の熱が逃げていく出口
胡蝶蘭の置き場所といえば、レースのカーテン越しの窓辺が定番です。
日中はそのとおりで、三重県の普及センターによるファレノプシスの管理方法でも、晩秋から春は暖かい室内の窓辺に置き、レース越しの光を当てるよう案内されています。
ところが日が落ちると、同じ窓辺の役割が変わります。
埼玉県の省エネ住宅のすすめによると、冬に室内から流れ出る熱のうち約60%は窓から逃げていくそうです。
日中は光の入口だった窓が、夜は熱の出口になるわけですね。
カーテンを閉めると、鉢だけが寒い側に残る
私が「あっ」と思ったのは、夜にカーテンを閉める場面です。
窓際に鉢を置いたままカーテンを引くと、部屋の暖かい空気は布でさえぎられ、胡蝶蘭はガラスとカーテンのあいだに閉じ込められます。
部屋にいる私たちが快適でも、鉢のまわりだけ別の気温になっているのです。
窓で冷やされた空気は下へ流れるので、出窓や窓台のような低い場所ほど、冷気がたまりやすくなります。
家具の配置によっては、株元の根のあたりがいちばん冷たい空気に浸かっていることもあります。
暖房を切ったあとが、いちばん手薄な時間
もうひとつの落とし穴が時間帯です。
夜の11時ごろ、まだ部屋がぽかぽかしているときに胡蝶蘭を見て「大丈夫そう」と安心して、暖房を切って布団に入る。
外の冷え込みが進むのはそこからで、室温はじわじわ下がり続け、明け方に底を打ちます。
つまり、冬の胡蝶蘭がいちばん寒い時間を、私たちは見ていません。
タイトルにした「眠ったあと」とは、そういう意味です。
胡蝶蘭にとって「寒い」は何度からか
家庭の目安と生産者の目安は違います
数字は情報源によって幅があります。
混乱しやすいところなので、並べてみますね。
| 温度 | 目安の出どころ | 読み取り方 |
|---|---|---|
| 10℃以上 | 三重県の家庭向け管理方法 | 冬の室内で守りたい最低ライン |
| 16〜17℃以上 | オランダの胡蝶蘭育種会社Anthuraの栽培情報 | 葉を傷めないためのプロの基準 |
10℃は「これを割らないで」という線で、そこまで下げてよいという意味ではないと私は受け取っています。
Anthuraの解説は、胡蝶蘭には常に16〜17℃以上が必要で、これを下回ると傷むリスクが大きく上がるとしています。
ご家庭で毎晩16℃を保つのは難しくても、10℃を下限に、できるだけ上へ寄せていく気持ちでいれば十分です。
夜が冷えても、昼に暖まれば持ちこたえる
同じ解説に、私が膝を打った話が載っています。
夜16℃でも昼に25℃まで上がればたいてい問題ないのに、昼が19℃止まりだと葉に大きな傷みが出るおそれがある、というのです。
1日の平均温度も、傷みの出方に関わるわけですね。
この話は、窓辺を悪者にしなくてよい理由にもなります。
昼は窓辺でしっかり日を浴びて暖まり、夜だけ避難する。
冬の胡蝶蘭は、この往復でずいぶん楽になります。
冷えの跡は、6週間ほど遅れて出てきます
厄介なのは、冷えた翌日には何も起きないことです。
アメリカ蘭協会の解説によると、低温で葉の内部の細胞がつぶれる障害は、症状が見えるまで傷んでからおよそ6週間かかります。
起きやすいのは晩秋と早春で、育ち途中の若い葉は8℃に2時間さらされただけで症状が出ることもあるそうです。
12月の冷え込みの跡が1月下旬になって現れれば、原因を水やりや病気のせいだと思ってしまいますよね。
葉の異変に首をかしげたら、6週間前の夜を思い出してみてください。
寝る前の1分でできる、夜の窓辺対策
まず最高最低温度計を葉の高さに置く
最初にお願いしたいのは、エアコンの表示を信じないことです。
あれは部屋の別の場所の温度で、鉢のまわりの温度ではありません。
最高最低温度計をひとつ、胡蝶蘭の葉の高さに置いてみてください。
見るのは翌朝の「最低」の数字だけで大丈夫です。
10℃を割っていたら今夜から手を打つ、16℃前後あれば今のままで様子を見る、というように、数字で判断できるようになります。
「たぶん大丈夫」で過ごす冬より、気持ちもずっと楽ですよ。
夜だけ、窓から1メートル離す
カーテンを閉める前に、鉢を部屋の内側へ移します。
私の基準は窓から1メートルほどで、窓際よりも床から離れた棚やテーブルの上を選びます。
小さな移動ですが、ガラスとカーテンのあいだから出るだけで、鉢のまわりの空気が部屋の側に変わります。
このブログの置き場所の記事には「頻繁な移動はストレスの元」とあるので、毎晩動かしていいのかと迷われるかもしれませんね。
あの記事が避けたいのは、温度や光ががらりと変わる移動だと私は読んでいます。
同じ部屋の中で窓際と内側を行き来する程度なら、冷気にさらし続けるより負担は小さいと考えています。
そっと両手で持ち、朝は同じ向きに戻すのがコツです。
窓に向いた花の向きが変わらないよう、鉢に小さな目印をつけておくと迷いません。
動かせない大鉢は、囲って守る
贈答用の3本立て、5本立ては重たくて、毎晩の移動は現実的ではありません。
そんなときは、その場で冷気をさえぎります。
- 窓と鉢のあいだに、段ボールや断熱シートを立てる
- 鉢の下に発泡スチロールの板を敷いて、床や窓台の冷えを遮る
- カーテンを鉢より窓側に引けるなら、鉢を部屋の側に出してから閉める
- 朝になったら囲いを外し、蒸れないよう空気を通す
寝室のような夜も暖かい部屋へ、冬のあいだだけ引っ越す手もあります。
玄関は人が出入りするたびに外気が入るので、冬の置き場所としてはおすすめしません。
冬の水やりと暖房は、夜から逆算する
水は午前中に、室温になじませてから
冬の水やりで私が守っているのは、夕方以降にあげないことです。
濡れた植え込み材を抱えたまま夜の冷え込みを迎えると、根が冷たい水に浸かり続けることになります。
午前中にあげれば、日中のあいだに少しずつ乾いていきます。
間隔は水苔の乾き具合で決めるのが基本で、我が家の冬は半月に1回ほどに落ち着きます。
アメリカ蘭協会も、植物にかかる水は10℃以上にするよう勧めていて、汲み置きして室温になじませるのも一つの方法だとしています。
水の扱いは開封後ガイドでも触れていますので、あわせてご覧くださいね。
暖房の風は、暖かくても当てない
冷やしたくない一心で、エアコンの吹き出し口の近くに置くのは逆効果です。
温風が直接当たると乾きすぎて、花も葉も傷みます。
場所ごとの夜の様子を、表にまとめておきます。
| 場所 | 夜に起きやすいこと | おすすめの対応 |
|---|---|---|
| 窓際・カーテンの内側 | 冷気がたまり、夜間に大きく冷える | 就寝前に部屋の内側へ移す |
| 出窓・窓台 | 外気に近く、株元から冷える | 冬の夜は置かない |
| 玄関 | 暖房がなく、外気も入りやすい | 冬のあいだは別の部屋へ |
| エアコンの風下 | 暖かくても乾きすぎる | 風の通り道から外す |
| 部屋の内側の棚やテーブル | 比較的安定している | 夜の定位置にする |
葉水は控えめに、夜はしない
乾燥が気になって葉に霧を吹きたくなる気持ちは、よく分かります。
ただ冬は、やるとしても暖かい日中に軽く済ませ、夕方以降は控えます。
葉の付け根に水がたまったまま夜を迎えると、冷えと蒸れを同時に招いてしまいます。
葉に異変が出たときの向き合い方
冷えのサインは下の葉から探す
Anthuraの解説では、低温の症状は日中に暖まりにくい下の葉から出やすく、葉先の強い赤みや葉の縁の傷みも挙げられています。
アメリカ蘭協会の解説には、ウイルスに似た模様に見えることがあるとも書かれています。
春先や晩秋の葉に覚えのない変化が出たら、まず下の葉と若い葉を見比べてみてください。
ただし、見た目だけで原因を断定はできません。
私自身、斑点を見て冷えだと思い込み、あとから別の原因に気づいたこともあります。
広がっていく黒い斑点やべたつきがあるなら病害虫も疑い、園芸店に相談するのが近道です。
傷んだ葉は戻らないので、次の夜を守る
一度つぶれた細胞は元に戻らないと、アメリカ蘭協会もはっきり書いています。
だから焦って肥料をあげたり、日当たりの強い場所へ移したりしないでください。
同協会は、熱帯の植物の一部では、冷えたあとに強い光や乾燥、高温にさらすと水分の損失が増えるとも説明しています。
慌てて世話を増やすより、最低気温の数字を確かめて、次の夜を守ることに力を注ぎましょう。
葉に跡が残っても株は生きていますから、春になれば新しい葉が育ってくれます。
「涼しいと花芽がつく」との違い
秋の涼しさが花芽のきっかけになる話を聞いて、窓辺に置いたままにしている方もいらっしゃると思います。
昼夜の温度差が開花を促すのは本当ですが、ここまでお話しした明け方の底冷えとは別の話です。
花芽のために涼しくするときも、夜の温度計から目を離さないでくださいね。
まとめ
胡蝶蘭の冬越しで見てほしいのは、私たちが起きている時間の室温ではなく、眠っているあいだの窓辺です。
- 昼はレース越しの窓辺、夜は窓から1メートル離れた部屋の内側へ
- 最高最低温度計で翌朝の最低温度を確かめ、10℃を下限に、できるだけ高く保つ
- 動かせない鉢は、段ボールや発泡スチロールで冷気をさえぎる
- 水やりは午前中に、室温になじませた水で
- 葉の異変は6週間前の夜を疑い、傷んだ葉より次の夜を守る
私が最初の一鉢を枯らしたのは「届いた直後の扱い」でしたが、その後の冬にも、夜の窓辺で何度か痛い目に遭いました。
今では寝る前に胡蝶蘭を部屋の内側へ移すのが、歯みがきと同じくらいの習慣です。
まずは今夜、カーテンを閉める前に、鉢のある場所を一度だけ見てあげてくださいね。